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東京地方裁判所 昭和27年(行)29号 判決

原告 株式会社グラハン本舖 外七名

被告 品川税務署長 外五名

一、主  文

原告株式会社グラハン本舗の請求中、被告品川税務署長神山常男が同原告に対し別表第一、第二欄記載の通りなした物品税賦課処分の無効確認を求める部分を却下し、その余の部分を棄却する。

原告江沢秀雄の請求中、被告大森税務署長羽成長策が同原告に対し、別表第一、第二欄記載の通りになした物品税賦課処分の無効確認を求める部分を却下し、その余の部分を棄却する。

原告川部嘉市の請求中、被告蒲田税務署長早川登が同原告に対し別表第一、第二欄記載の如く、昭和二十六年八月分、同年九、十月分及び同年十一月分としてなした物品税賦課処分の無効確認を求める部分を却下し、その余の部分を棄却する。

原告株式会社山田製作所の請求中、被告墨田税務署長熱田彦二が同原告に対し、別表第一、第二欄記載の如く、昭和二十六年十一月分としてなした物品税賦課処分の無効確認を求める部分を却下し、その余の部分を棄却する。

原告日高新七、渡辺産業株式会社、有限会社芹沢製作所、立松一太郎の各請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は「被告品川税務署長神山常男が原告グラハン本舗、日高新七に対し、被告大森税務署長羽成長策が原告渡辺産業株式会社江沢秀雄に対し、被告蒲田税務署長早川登が原告川部嘉市に対し、被告世田ケ谷税務署長鈴木勇治が原告芹沢製作所、立松一太郎に対し、被告墨田税務署長熱田彦二が原告山田製作所に対して、それぞれ別表第一、第二欄記載の如くになした物品税賦課処分がいづれも無効であることを確認する。被告国は原告グラハン本舗に対し二百二十四万四千九百二十円、原告江沢秀雄に対し一万九千二百円、原告川部嘉市に対し九万九千六百四十円、原告山田製作所に対し一万七千九百八十円を、それぞれ支払へ。訴訟費用は被告等の負担とする。」旨の判決を求めると申立て、

「原告等は各その肩書地で何れもパチンコ球遊器の製造を業とする者であるが、被告品川税務署長は、原告グラハン本舗、日高新七に対し、被告大森税務署長は原告江沢秀雄、渡辺産業株式会社に対し、被告蒲田税務署長は原告川部嘉市に対し、被告世田ケ谷税務署長は原告芹沢製作所、立松一太郎に対し、被告墨田税務署長は原告山田製作所に対し、それぞれ別表第一、第二欄記載の如く物品税を賦課して来た。そこで原告グラハン本舗、江沢秀雄、川部嘉市、山田製作所はそれぞれ別表第三欄記載の如く、その賦課された物品税を同表第四欄記載の税務署長に支払ひ、以て被告国に納付したのであるが本件物品税賦課処分は以下の理由によつて当然無効のものである。

本件物品税賦課処分はパチンコ球遊器が物品税法第一条第一項第一種丁類第四十二号に所謂遊戯具に属するものとして、前叙の如く各税務署長からそれぞれ所轄内の原告等に対しなされたものである。然し物品税が分類上間接消費税に属することは明らかなところであり、その間接消費税に於ては、税金の実質上の負担はその物品の製造業者に於てこれをなさず、その負担は消費者に転稼されることになつて居る。その転稼の意味するところは、消費者が一旦自己の所得に帰した物品を資本的に消費する場合を除き、自已に於て最終的に消費する場合にその最終消費に担税力を認めて、最終消費者に物品税を実質的に負担せしめると言うことである。従つて最終消費の予定される物品に於てのみ、右の如き担税力が認められるのであつて、最終消費の予定されて居ない物品、即ち元来資本的支出に向けられるべき物品については、右の如き担税力は考えられない。従つて本来資本的消費しか予定されて居ない物品は、特別の規定がない限り、間接消費税たる物品税の課税対象物品とはなり得ない。ところでパチンコ球遊器は本来パチンコ業者の営業用施設として使用される器具であるから、元来資本的消費をその本来的用途とするものと言うべく、特にパチンコ球遊器に対して物品税を賦課する旨の規定がない限り、パチンコ球遊器は物品税課税対象物品とはなり得ないものである。

物品税法第一条第一項中には、課税対象物品として遊戯具が掲げられて居るが前述のところからして右規定だけでパチンコ球遊器を物品税課税対象物品と決定することはできずしかも同法施行上の細則を定めた物品税法施行規則第一条は課税物品となるや否のいわゆる「ボーダーライン」上の物品につき課税すべきものを明定したが右課税物品表中「玩具及遊戯具類」(同表第一類丁類四十二、口)中にもパチンコ球遊器は見当らないし、その他右規則に於てもパチンコ球遊器を以て物品税課税対象物品とする旨の規定は遂にこれを発見できないのである。

パチンコ球遊器はその歴史も相当に古く、戦時中こそ一時少なかつたが戦後急に流行した大衆娯楽であるがその実際の課税状況について見ると、東京国税局長が昭和二十六年三月二日附例規間消三二号を以て管下税務署に対しパチンコ球遊器が物品税の課税対象物件である旨の通達をなし、国税庁長官が同年十月一日附で全国の税務署に対しパチンコ球遊器について物品税を賦課すべき旨通牒する迄は、物品税法第一条に「玩具及遊戯具」の記載があるにも拘らず、相当長期間に亘つて物品税が課税されなかつたのである。従つてパチンコ球遊器の製造業者はパチンコ球遊器が物品税課税対象品に非ずと信じて、その価格決定に際つて、物品税を考慮に入れて居なかつたのである。

以上の如くパチンコ球遊器はその性質上間接消費税たる物品税の課税対象物品たり得ず、又実定物品税法に於てもパチンコ球遊器について物品税を賦課すべきものとする明文もないのであるから、パチンコ球遊器は明らかに物品税課税対象物品に非ざるものと言うべきである。然るに被告税務署長等は、物品税法の解釈を誤りパチンコ球遊器が物品税法に所謂遊戯具に該当するものとして本件賦課処分をなしたのであつて、その賦課処分は物品税法上あり得べからざる法律関係を設定せんとするものであるから当然無効のものと言わなければならない。

前述の如く本件賦課処分が当然無効なる以上、原告グラハン本舗、江沢秀雄、川部嘉市、山田製作所が本件賦課処分に基いて被告国に納付した前述の金員については、同被告が法律上の原因なく、右原告等の損失に於て右同額を利得したことになり、又右各納付を被告国のために出納官として受領した各税務署長においてその納付を受けた当時、上叙法律上の原因がないことを知らなかつたとしても右原告等からの納付によつて被告国の受けた利益はそのまま現存するから、同被告は右原告等に対してそれぞれ右同額の金員を不当利得として返還すべきものである。」と述べた。

被告等の代理人等は、請求棄却の判決を求め、

「原告等主張事実中、原告等が各その肩書地でパチンコ球遊器の製造を業とする者であること、被告税務署長等がそれぞれ原告主張の如く、原告等に対して別表第一、第二欄記載の通りに物品税を賦課したこと、原告グラハン本舗、江沢秀雄、川部嘉市、山田製作所がそれぞれ別表第三欄の如く、賦課された物品税を第四欄記載の各税務署長を通じ被告国に納入したことは認める。パチンコ球遊器が遊戯用の器具であることは社会観念上明らかなところであるから、被告税務署長等はパチンコ球遊器は物品税法第一条第一項第一種丁類第四十二号に所謂遊戯具に該当するものとして本件賦課処分をなしたのである。

物品税が分類上間接消費税に属するものであることは原告等主張の通りであるが間接税の実質上の負担が消費者に転稼さるべきものであるということは、間接税の立法の上に於て考慮さるべき事柄ではあろうが、既に一度成文化され、その規定に於て物品税課税対象物品と定められた以上、該物品について右の如き転稼が可能であるか否かは問題となり得ず、転稼の能否を課税対象物品なりや否やの判断の基準とする理由はない。仮に右の如き転稼性の有無が基準となるべきものとしてもパチンコ球遊器が本来営業用施設としてのみ使用される物品とは認められないのであるが、この点については原告等の主張を容認するとしてもパチンコ球遊器について、右の如き転稼がないわけではない。元来転稼と言うことは独り売買に於て行われるのみでなく、賃貸借、交換その他の契約に於ても可能なのであるが、パチンコ球遊器についてもパチンコ業者がその顧客から支払を受ける料金の中にパチンコ球遊器の減価償却費が計上されて居ることによつて、その顧客がパチンコ球遊器についての物品税を、消費者として最終的に負担するものであることは明らかである。物品税法第一条に主として業者によつて営業用に使用されると考えられる球用具(第一種甲類三)普通乗用自動車(丙類三十二)小型普通乗用四輪自動車(丁類五十二)が列挙せられて居ることを考え併せれば、以上のことは一層明白にならう。よつてパチンコ球遊器については最終消費が予定されず従つて右の如き転稼も行われ得ないから、物品税課税対象物品ではないとする原告等の主張は理由がない。

仮に原告等主張の如くパチンコ球遊器はその性質上物品税課税対象物品ではないとしても行政処分が存在する以上、重大にして且明白な瑕疵の存せざる限りこれを無効とすることはできないのであるが、原告等主張の様な瑕疵は少くとも明白とは言えないから、原告等主張の如き瑕疵が存したとしても本件賦課処分は無効とは言えない。

原告等は物品税法の列挙主義と東京国税局、国税庁よりの、通牒について云々して居るので、これについて述べる。

物品税法はその課税対象物品を列挙する主義を採用して居るがその方法は個個の具体的物品を掲記するものではなく個々の物品を内包する抽象的概念を以て列挙して居るのである。而して物品税法施行規則中遊戯具に関する規定は右抽象概念に内包される具体的物品を列挙して居るのではなく、課税金額の最低限度を定め、他の項目並に他の法令に基く課税との調整(二個以上の項目又は法令に該当するが如き疑あるものにつきよるべき項目法令を明にする等)を図るための規定として設けられて居るのであるから、施行規則に於て、遊戯具としてパチンコ球遊器を表示して居ないからと言つてパチンコ球遊器を物品税非課税対象物品とすべき理由にはならない。

又、原告等主張の通牒がなされたことは事実であるが、その趣旨はパチンコ球遊器が最近生産の増加を見、物品税課税対象物品としての重要性を増したので、課税漏のない様注意するにあつたのであり、決してそれ以前に於てパチンコ球遊器を非課税物品と解して居た訳ではない。仮に課税されて居なかつたとすれば単純な課税漏であるにすぎない。

以上の通りであるから原告等の請求はいづれも理由のないものである。」と述べた。

三、理  由

原告等が各その肩書地でパチンコ球遊器の製造を業とする者であり、被告税務署長等が原告等主張の如く別表第一、第二欄記載の通りに原告等に対して物品税を賦課したこと、原告グラハン本舗江沢秀雄、川部嘉市、山田製作所が、それぞれ別表第三欄記載の如くに右賦課物品税を納付したことは当事者間に争がない。

ところで元来確認訴訟の対象となり得るものは民事訴訟法第二百二十五条の例外の場合を除き、現在に於ける権利義務(法律関係とは複数的権利義務の総合である)の存否に限られているのであるから通常行政処分無効確認と言うのは、当該行政処分が有効であつたならばその処分により発生すべき権利、義務の不存在の確認を意味するのであり、その意味に於てのみ行政処分の無効が確認訴訟の対象となり得るのである。かように考えて来ると、租税賦課処分の無効と言うことは租税債務の不存在と言うことになる。原告等の本件賦課処分の無効確認請求も亦その意味するところは原告等の租税債務不存在確認でなければならない。ところが原告グラハン本舗、江沢秀雄、川部嘉市、山田製作所が本件賦課物品を別表第三欄記載の如く納付したことは当事者間に争がないのであるから、右原告等がその納付済の限度に於て、現在物品税債務を負担して居ないことは理由こそ異なれ被告等に於てもこれを争わないものと云わなければならない。(すなわち、原告等は賦課処分の無効を理由として物品税納税義務の不存在を主張し、被告等はすでに納税があつたことを認めて、その義務の消滅を是認しているわけであるが、いづれにしても現在納税義務のないことについては争がないことになる。)して見れば現在の権利義務そのものについて争がないのであるから、その理由の如きは確認訴訟の対象とならないので原告グラハン本舗、江沢秀雄、川部嘉市、山田製作所の本訴請求中、別表第三欄記載の既納付税金についての賦課処分の無効確認を求める部分は、即時確定の利益がないものと言わなくてはならない(もつともこのことは、右原告等が既納付税金についての賦課処分の無効であることを理由としてその納税金による不当利得返還請求をなすことの妨げとなるものではないことは云うをまたないことである。)従つて右賦課処分の無効確認を求める部分の請求は却下さるべきものである。

次に本件賦課処分の有効無効について検討する。

パチンコ球遊器は、それ自体の使用の目的は娯楽の為の器具であることは公知の事実であり、その事実よりすればパチンコ球遊器が社会観念上遊戯具なることは明らかである。よつて次にパチンコ球遊器が物品税法に所謂遊戯具に該当するものであるか否かについて考える。

原告等は、物品税法はその性質上明らかにその課税物品を同法第一条列挙の物品中その本来的用途として資本的消費に向けらるべきものを除いたものに限定して居るに拘らず被告税務署長等に於てその解釈を誤り、元来資本的消費に向けられるものである。パチンコ球遊器を物品税課税物品なりとして本件賦課処分がなされたものであつて、法律上あり得べからざる法律関係を設定する行政処分であるから当然無効であると主張するが本件賦課処分によつて設定されるものは一定額の租税納付義務そのものであつてそれ自体としては法律上あり得べからざるものではないから本件賦課処分が当然無効なる為には一般の場合と同様その処分に重大にして且明白な瑕疵が存しなければならない訳である。現在に於てパチンコ営業が非常な流行を見、そのパチンコ営業に於てパチンコ球遊器が必ず営業用施設として使用されて居ることは公知の事実でありその事実よりすればパチンコ球遊器が主としてパチンコ営業者の営業用施設として使用されることを目的とするものであることは容易に推認されるので、パチンコ球遊器が現在に於ては営業用施設として使用せられることをその本来的用途とする遊戯用の器具であると言うことはできる。従つて物品税法自体に於て資本的消費に向けられることをその本来の用途とする物品を、その課税物品より除外する趣旨が明白に認められるか否かゞ問題になる。

租税体系上物品税が所謂間接消費税に属するものであり、物品税はその物品の消費者に於てこれを負担する建前(それはあくまでも建前である)のものであることは明白である。(このことは昭和二十六年法律第二八七号による改正後の物品税法第三条の二第一項に於て明文化されて居る。)然し右の如き物品税に於ける転稼の建前は、単に物品税の法律上の納税義務者と、その税金の実質上の負担者とが異なるべきものであることを示すに止まり、それ自体に於て如何なる消費形態に於て担税力が把握されて居るかと言うことまで示すものではない。

従つて仮令租税理論上物品税の負担者は原告等の所謂最終消費者に限らるべきものであり、従つて最終消費の予定されず資本的消費に向けられることを本来の用途とする物品は物品税課税物品に入れない方が合理的であると結論されるとしても、実定物品税法がその結論をそのまま採つて居るか否かは別に物品税法の規定自体の合理的解釈より決せられなければならない。同法第三条の二第二項に於ては、物品の消費者を「販売の目的以外の為に又は自已に於て若は他に委託して加工を為さんとする目的の為に当該物品を購入する者」と法定して居る。従つて同法は少くとも右の如き購入者について担税力を認めて居ると言える訳であり、右規定に於て「物品税法が物品を資本に消費する場合に担税力がない。」と明白に認めて居ると結論することは無理であろう。又物品税法第一条に列挙されて居る物品を見るに、原告等主張の如き最終消費を予定して居る性質のものが多く掲げられて居ることは事実であるが、そのやうな物品と雖も資本として消費に充てられる場合もない訳ではないし、又同条には主として営業用に使用されるであろうと予想される撞球用具、普通乗用自動車、小型乗用四輪自動車も掲記されて居ることを考え併せれば、物品税法第一条に掲記されて居る物品の用途性質からして、資本的消費に向けられることを本来の使命とする物品だからと云つて、これを物品税法が物品税の課税物品から除外しているものと結論する訳にはいかない。

次に物品税法施行規則第一条遊戯具の項にパチンコ球遊器が掲記されて居ないことは原告等主張の通りである。物品税法はその課税物品を個別的具体的に表示する方法を採らず、一定の内包を有する名称を掲げこれに包含されるものを課税物品とする方法を採つて居るのであり同法施行規則に於ても、その規定自体から見て物品税法に掲記する概念に内包さるべき個々の物品を列記することを目的として居るものではなく、その遊戯具に関する項に於ては課税の最低価格を定め、同法の他の項目並に他の法令に基く課税との調整を図るための規定を設けて居るにすぎないものと認められるから、具体的に個々の物品を列挙することをその目的としない同法施行規則に於てパチンコ球遊器が挙げられて居ないからと言つて、パチンコ球遊器が物品税課税物品ではないと言うことはできない。又国税庁並に東京国税局より原告等主張の通牒が発せられたことは当事者間に争がなく、更にその通牒のなされる迄パチンコ球遊器については物品税が賦課されなかつたとしてもその事実は物品税法上パチンコ球遊器が課税物品であるか否かを決するものではないし、又原告等がパチンコ球遊器の価格決定に際つて物品税額を考慮に入れなかつたとしてもパチンコ球遊器が物品税課税物品ではないと言えるものでもないことは勿論である。

以上判示の如くパチンコ球遊器が一応社会観念上遊戯具であると認められ、物品税法第一条に所謂遊戯具が原告等の主張する如き資本的消費に向けられるべきものを含まないことが必ずしも明白と言い難い以上、本件賦課処分を当然無効であると断ずることはできないのである。して見ればその無効確認を求める原告等の請求は失当であつて棄却を免れず、従つて又原告グラハン本舗、江沢秀雄、川部嘉市、山田製作所の被告国に対する本件賦課処分が当然無効であることを前提とする不当利得返還請求も失当として棄却すべきものである。

よつて、訴訟費用は民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項本文を適用して原告等の負担とすることとし、主文の通り判決する。

(裁判官 毛利野富治郎 北村良一 山田尚)

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